ジュリアン・バーンズ 著、土屋政雄 訳『終わりの感覚』を読んだ。

引退生活を送る男の元に、弁護士から連絡が入る。日記と500ポンドを、ある女性があなたに遺したと。元恋人とその母親、友人エイドリアンたちと過ごした『過去』を思い出していく、「その人生で何かを変える可能性がほぼなくなるころ」に到った男の話。

終わりの感覚 (新潮クレスト・ブックス)

  • 著者/訳者:ジュリアン バーンズ
  • 出版社:新潮社( 2012-12-01 )
  • ペーパーバック:188 ページ
  • ISBN-10 : 4105900994
  • ISBN-13 : 9784105900991

この本は、初老の男がひたすら学生時代を振り返る話だ。ハイスクールの授業を思い出し、女の子とのトラブルで自殺した同級生を思い出し、付き合っている間は性交渉をさせてくれなかった元恋人を思い出し、自分の元恋人と付き合った優秀な友人のことを思い出す。その一方で、六十になって再会した元恋人に何度もメールを送り、言われるがままに会いに行き、友人と元恋人へ宛てた恨みがましい手紙について謝罪をする。過去の出来事を、これからの行動で補おうとするかのように。

小説家が小説を書く。そこにはどんな動機があるのだろう。若かりし頃の自分には見えていた世界の鮮烈さを残すため?あのとき選択した事柄について考え、別の決断を下してみるため?

ジュリアン・バーンズは『終わりの感覚』の中でこんな風に書いている。

いまはもう何事も変えられず、修正もできない。(P.183)

突き放されるなあ、と思った。誰しも選択してきた物事の上に生きている。間違えるし、間違えたことすら気付かないこともある。その結果はある時点に到達したら、もう変えることは出来ない。

私は軽薄にも「歴史とは勝者の嘘の塊」とジョー・ハント先生に答えたが、いまではわかる。そうではなく、「生き残った者の記憶の塊」だ。そのほとんどは勝者でもなく、敗者でもない。(P.71)

記憶が塊として結晶化し、自らの人生であるのに、歴史として客観的に眺めるしかなくなる。しかしその生の一回性という事実について脅かすでもなく嘆くでもなく、読後感の爽やかな小説として着地した『終わりの感覚』。この瑞々しさはどこから来ているのだろう。読んだ人の感想を聞いてみたい本でした。

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「タイトルは耳にしたことがあるけど別に読む気にはなってない」本ってけっこうあって、図書館で(それっぽく言えば)目が合うことが多いそれらを積極的に読みましょう週間。というわけで次は、アリス・マンロー『小説のように』を8/30くらいまでに読みます!読みたい!読めるかなあ…(弱気)。

小説のように (新潮クレスト・ブックス)

  • 著者/訳者:アリス マンロー
  • 出版社:新潮社( 2010-11-01 )
  • 単行本(ソフトカバー):429 ページ
  • ISBN-10 : 4105900889
  • ISBN-13 : 9784105900885

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