エイモス・チュツオーラ『やし酒飲み』を読んだ。

ヨーロッパから見た「未開の地」を題材にした話は手にとったことがあるけれど、その逆はどう描かれてるのかなと思って読んだ。アフリカの、神話のしなやかさと毒を存分に含んだマジックリアリズム小説でした。

やし酒を飲むことしか能のない男が、死んだやし酒づくりの名人を取り戻すために「死者の町」へ向かう。その道中は、子供は指から生まれ、体のすべての部位を借りて完璧な紳士になりすます頭ガイ骨が現れ、『笑の神』の笑いを笑う旅。神話的モチーフに溢れたシーンの連続で、楽しく読めました。例えば音楽を扱えば、こんな感じ(39P)。

「ドラム・ソング・ダンス」という名の、三人の、わたしたちと同じ種類の生きた生物がいた。
(中略)
この「ドラム」が打つようにすばらしく、ドラムを打てる者はこの世に一人もいないし、ダンスについても、この「ダンス」の右に出るものはいない。また「ソング」が歌うように、歌えるものは一人もいない。

人智を超えた「ドラム・ソング・ダンス」が動き出せば、人々はつられて踊るしかない。『あちら側』のキャラクターがこの三人によってしっかりと連れていかれる描写もあって、人の理解を超えた『自然』への畏怖や『音楽』の越境性、力強さがもれなく表現されていて大満足。丁寧に読み込めば、マジックリアリズムで多用される神話的モチーフを読み解く底本としても、勉強になりそうです。

一方で、『お金』で「死」を売り「恐怖」を貸し付けたり、『裁判』で最後まで明確な判断をしなかったりと、欧州から持ち込まれた価値観に対する批判的な態度も見られて面白い。当時のヨーロッパでは、この辺はどう読まれていたんだろう。

つたない英語で書かれていたというこの本、日本語訳も素朴さと幻想的で細かい描写を漏らさない文体で好みでした。つい最近、岩波文庫でも出たみたい(翻訳も変更なし!)。ある時代が煮詰まっているような、こういう書籍が気軽に買えるって偉大なことだなーなんて思いました。

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