『ラ・ラ・ランド』は「若かった」という過去を抱えて生きていく人のための物語だと思う。

『ラ・ラ・ランド』を見た。女優を目指しハリウッドに出てきたが役を掴めずカフェの店員をしているミアと、「死にかけている」ジャズを生き返らせるために自分の店を持ちたいと願うセブ。さえない二人の恋を往年のミュージカル映画を思わせる歌とダンスで描く。監督は『セッション』のデミアン・チャゼル。

オスカーをいくつも取っているし、演出、音楽、脚本のクオリティ等さんざん議論されているので、個人的な感想を。これは若さについての物語だ。ある人生においてまだ何者でもなく、だからこそ何者にでもなれる可能性があって、選択できる未来が幾つもあった頃の話。その季節が過ぎ、「若かった」という過去を抱えて生きていく人のための物語だと思う。

パーティーバンドのキーボードとしてa-haの≪Take on me≫を本当にイヤそうな顔で演奏するセブ(肩パットが最高)。一念発起してチャレンジした自作自演の舞台で客を集められず、挫折感を味わうミア。二人とも甘い。なめてんのかと言いたい。自分の価値観に引きこり、経験から何かを得ようとすらしていない。でも一方でめちゃくちゃ分かる。若さってそういうことだったんだよなあ。1人で世界と格闘してるの。そう想起してしまった時点で、もうぼくは映画に完全に取り込まれていたのだろう。観客であるぼくは二人の不完全さを甘酸っぱさと共に安全な場所からのうのうと味わう。油断しきっていたところで、暴力的なエピローグ。安全地帯にいたはずのぼくは自分自身が「もう若くはない」という事実に心をえぐり取られて、その激痛からカタルシスを得る。よくできた映画だと感じた。

デミアン・チャゼルが描く人物はかなり偏屈だ。『セッション』の主人公であったニーマンは音楽学校において軍隊的で時に人を死に至らしめるような「間違った」指導を行うフレッチャー先生と対峙するのだが、最終的にそのやり方を否定するのではなく、同じ土俵で、音楽で殴り返すことでほの暗い達成感、自己承認を得る。ニーマンは若く、他のやり方を知らない。でも、そのやり方で感情の高ぶりが得られることは知っている。

今作のミアにとっては「女優として成功する」こと、セブは「ジャズが生き永らえる場所をつくる」ためにチャレンジすることが、彼らのアイデンティティを支えている。誰にどう思われてもいいと言いながら、他者からの評価を得なければ手に入らないものだけが、彼らを高揚させている。ぼんやりとしたイメージを頼りに大きすぎる夢を追っている2人の成功を支えるのは自分を信じ続ける少しの狂気だ。

デミアン・チャゼルが映画を通じて作用しようとしているのは、どちらかといえば邪悪な感情だと思う。好きな価値観かといえば個人的にはノーだ。しかし、客観的に見れば異常なやり方でも当人にとっては救いとなる事象は確かに存在する。誰がそれを否定できようか。しかもこれだけキャッチーな、誰にでも届いてしまう映画として提示されてしまえば笑うしかない。音楽も映像もいいし、映画館で見ておいてよかったです。

セッション コレクターズ・エディション [Blu-ray]

  • 販売元:ギャガ( 2015-10-21 )
  • 時間:107 分
  • 1 枚組 ( Blu-ray )
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